靄(モヤ)

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「…え?」 それだけが口から漏れたけれど、越石さんは私の答えを待っていた。 真剣な眼差しに縛られてしまう。 でも、表情だけでなく体までもが硬くなる中、ちゃんと答えなきゃと思った。 部長に嫌な思いをさせるのだけはもう嫌だった。 「…はい。います。お付き合いしてる、好きな人が。」 顔が熱くなって、越石さんと目を合わせているのが辛い。 「…そうですか。…残念。」 そう言った時の越石さんの顔は少し笑って、真剣な顔を崩していた。 「…でも、先のことはわかりませんからね。俺、諦めないでいます。1%の望みもないなんて言えないでしょ?」 その言い方は…ずるい。 だけど… 答えはこうなの。 「…1%だって…ないですよ。」 自分でもこんな風に言えるなんて驚いた。 越石さんも驚いてた。 「…言いますね…。なんか悔しいな。…でも、男女の仲なんてどうなるかわからないですし。」 そう言った時の越石さんは笑顔ではなく、少し怖い顔だった。 そして、営業のメンバーに呼ばれた越石さんは、私に一度笑顔をつくってからその輪の中へ入っていった。 硬くなった体をほぐすために、氷で薄まったピーチティーをゆっくりとストローで吸い上げた。
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