靄(モヤ)

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同じ電車に揺られて部長の家に向かうのは初めてだった。 幸い席が空いていて、二人で並んで腰を下ろした。 斜め向かいにいた若い二人組の女の子たちがチラチラとこっちを見ている。 『マジでかっこいいーー!』 『マジ、イケメンじゃん!』 『大人の男、色気あるー!』 『やっぱ私、年上がいいかも!』 『抱かれたーい!?って?』 遠慮のない声が、嫌でもここまで聞こえてしまう。 部長だって、気付いているのに。 私がちょっとだけ口を尖らせて部長に視線を送る。 それに気付いた部長が笑いながら私の耳に口を寄せる。 「ヤキモチか?…言わせておけ。俺はゆいのものだ。帰ってたっぷり実感させてやる。」 言いながら時折唇が耳に触れる。 赤い顔して俯く私の手を 部長は彼女たちにわかるように しっかりと握り直してくれた。
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