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「美月さん、ごちそうさまでしたー!!」
「ご馳走様でした。おやすみなさい。」
ゆいちゃんと美咲ちゃんがお店を出た。
まだ、揺れる暖簾を見ながら肩が下がるほど、深く息を吐き出した。
肩の荷が下りた。
まさにそうだったのかもしれない。
ゆいちゃんの言葉に驚いた。
『料理ってね、気持ちを伝えられるんだよ。』
ゆいちゃんが側にいてくれたら、
秀一はもう大丈夫ね。
私たちの母が亡くなったのは秀一が7歳、私が11歳の時だった。
父親は仕事が忙しく、母が亡くなってからは毎日二人の生活だった。
秀一よりたった4つだけ歳が上だった私に、ましてやまだ小学生だった私に、秀一の母親代わりなんて到底無理だった。
それでも、もうすぐ中学に上がる私は、なんとか秀一を守りたかった。
中学、高校と進学し、その先の進路は迷わず料理の専門学校に決めていた。
母の味を覚えているかもわからない秀一に、ご飯だけでもおいしいものを食べさせたくて頑張ってきた結果、料理がすごく好きになったし、この先も秀一にもっと美味しいものを食べさせてあげたかったから。
このお店を始めたのも、いつでも秀一がご飯を食べられる場所をつくってあげたかったから。
私も料理で秀一に気持ちを伝えたかったのかもしれない。
秀一が中学校の頃に反抗期を迎えてからは、私を遠ざけていたけれど、
長い反抗期…本当に長い反抗期を終えて、
ゆいちゃんというかけがえのない存在を連れて
私の店にやって来た。
あの時の喜びは忘れられない。
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