靄(モヤ)

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翌日。 土曜日。 私たち経理部メンバーは休日出勤。 今日明日が出勤予定。 部長と私は定時までの仕事を終えた後、営業部の打ち上げに行くつもりで私は着替えを持参。 社内全体は静かだけれど、経理部だけは通常と何も変わらない。 電話が少ないのと、私の来客対応がないことで、いつもよりハイペースで仕事がはかどる。 けれど、休日出勤独特の少しだけ緩い空気の中でたまに雑談したりして。 休日出勤のご褒美にそれくらいは少しなら許されるよね? 定時まではあっという間だった。 目標通りの仕事量もこなせて、ほどよい充実感を得ていた。 仕事を切り上げ、他の二人と別れる。 ロッカー室で着替えをしてから部長と合流した。 今日はベージュのクロップト丈のロールアップのパンツに黒のTシャツ。袖の部分がちょっとデザインがかってて、背中の上の部分が小さくハート型に切り取られてる。その小さなハート型から肌が覗く、お気に入りのTシャツ。ネックレスも付けた。 「部長!お待たせしました。」 部長に駆け寄ると、部長が一二歩歩み寄ってくれる。 「ん。可愛い。」 社内なのに"秀一さん"の言葉にドキドキしてしまう。 部長はそのままの格好。 今日は元々ラフなシャツを着ていた。 会場となるお店には歩いて向かう。 お店まではほんの少しデートみたいな気分だ。 でも、もしかしたら、会社の誰かに会うかもしれなくて、手を繋ぐのを躊躇した。 一緒の会場に向かう営業のメンバーにも合うかもしれない。 けれど、 部長から自然に伸ばされたその手を 私はそっと握った。
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