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ダークストーンとは何か、彼の話はそこから始まった。
ドリームストーンとダークストーン、それは互いが互いに影響しあう二対の石。言うまでもなくドリームストーンはよい夢を、ダークストーンは悪夢を司る。
ある時まだ名前のない一匹の蝙蝠が僅かな事象の変化に気が付いた。それは巨大な塔に入った僅か数ミリ程度の亀裂のような小さな滅びの調べ。
人々にはない、鳥獣の類のみが持つ鋭い感性が捉えたもの、居もしない仲間との意思疎通手段として超音波を使う種族であるからか、また別の理由からか蝙蝠は真っ先にそれを感知した。悪夢の力が増えていると。
その蝙蝠は何としても事象の変化を止めなければと思った。その微々たる亀裂が巨大な塔を崩してしまう前に。
しかしたかが蝙蝠、人との伝達手段などなく、仮にあったとしても信じる者など誰もいない。ならばせめて滅びの調べ、小さな亀裂を埋め合わせることはできなくても、それ以上の進行を食い止めることならできるはず。
人にはるか劣る脳で精一杯考えてはじき出したその蝙蝠の策はあまりにも危険なものだった。物を食べると目の前から無くなる、増えた悪夢を食べてしまえばいいのではないか。
そうして蝙蝠は皆が忌避する悪夢を一つ口にした。
「…!!」
美味い、こんな美味いものがこの世にあったとは、なぜ皆これを食わないのか理解ができない。
悪夢を口にした言葉を知らない蝙蝠の感想はそのような類ものだった。これなら悪夢の力などすぐに食い止めることができる、そのような使命感にも近い希望を抱き、蝙蝠は力の増した悪夢を食べ続けた。
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