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その事実に気が付いたアックーム、しかし今更その事実を述べたところで誰が信じてくれるだろう、それに邪心に染まりきった自分に善い行いという知識はない。あるのは人よりはるかに劣る知能からの僅かな良心のみ。
それならばいっそ最後まで悪人を演じてやろう、島民全員に憎まれて、それで島を助けよう。アックームは邪の深くに埋もれた小さな小さな良心を掘り当て、そして再び、今度は大切に、邪の深くへと埋め込んだ。
そして良心の行いを指針にアックームは自らの悪意に任せ、ダークストーンを奪い、マクラノ族と本格的な戦争が始まった。ダークストーンを悪用して猛威を振るい、大勢のマクラノ族の命を脅かす。
塔に入った崩落を呼ぶ数ミリの亀裂、まさかそれを止めようとした自分自身が亀裂だったとは。悪夢で得た知識が自分自身をも嘲笑う頃、カメックの読んでいた伝記通りの経緯を辿り、アックームは追い詰められた。
自分ももう終わり、ここで自分とダークストーンが無なれば、マクラノ族は大団円。自分の悪夢もそろそろ覚め時だろう。そう思った時だった。
―夢世界の底に閉じ込めるぞ―
そんな声が聞こえた。嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
そんな単語が彼の中を急激に埋め尽くし、大きな悪意も小さな良心も心の底からそれを拒んだ。そうすれば確かに自分は世界から消え失せマクラノ族にはよいだろう。しかし何もない世界に閉じ込められて悪夢、いや悪事全般に対して依存してしまった自分は永遠苦しむ事になる。それだけは嫌だ、どんな方法でもいい、どんな恥辱を伴ってでもいいから、いっそ殺してほしい。このような方法を選んだマクラノ族は何て残酷なのだろう。
夢世界のゲートに体を飲まれ、最初から大切に大切にに持っていた最後の良心さえも憎しみにより悪心に変わり行く。それもこれも全ては自らの手の中にあるダークストーンのせいだ。
アックームが最後の力を振り絞り、憎悪を込めてダークストーンを握りしめ、粉々に砕いた。
してやったり。コウモリの小さな良心がそう思ったと同時にその良心は息絶えた。
もし、純粋な悪の使いのようなものをアックームと形容したとするなら、本当に彼が誕生したのは今、この瞬間だったのかもしれない。
良心が消え失せ、残った強大な悪夢の力と邪悪な悪心は少しばかり正義感の強い小さなコウモリを完全なる悪人、蝙蝠の魔王アックームへと変貌させてしまったのだ。
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