925人が本棚に入れています
本棚に追加
竜の巣からは拭き返しの風が轟々と吹いていて、俺は靡く髪を片手で押さえながら、先輩へ向け口を開いた。
「先輩! 竜の巣です!」
「分かってるよ」
「父さんの言ったとおりだ……向こうは風が逆に吹いている……!」
「父さん? 何を言ってるんだ?」
「いくよ! ゴッツさん!」
「先輩とおよびっ! って、もういいか?」
「あ、はい。自分満足ッス」
そんなやり取りを経て竜の巣に近づくと、高さ15メートルはあろうかという大穴が開いていた。
茶褐色の壁に異様な雰囲気で広がる漆黒の空間に、堪らず俺はココアアイスへ手を伸ばした。
「じゃあ、中へ行ってくる。命綱をここで持っといて、暫く待機していてくれ」
「立っておくだけでいいんですか? モシャモシャ」
「何かあれば糸から魔力を流して報せる。そん時は助けを呼ぶか、逃げるかしてくれ」
「ういっす。自分心配ッス。 モシャモシャ」
「全くそうは見えないが、まあいい。行ってくる」
先輩は溜息を残して竜の巣へ一歩を踏み出した。
「そう。それが先輩の最後の台詞だった……」
「おい。勝手に変な設定を作るな」
「あ、聞こえてたんすね。すいません」
今度こそ本当に先輩が中へ消えた後、俺は適当に壁に背をあずけてしゃがみこみ、ぼんやりと空を見上げながら帰りをまつこととなった。
最初のコメントを投稿しよう!