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それは、いつから存在していたものなのかも分からなかった。
ある日それは忽然と、野原の真ん中に現れた。
両手で持てる程度の大きさの簡素な木箱。不釣り合いに大きな錠前には、錆びついた鍵がぶら下がっていた。
木箱を見つけたのは二人の少年であった。木の枝を振り回しながら探検と称して住んでいる町から大分離れた野原へと辿り着き、そしてその木箱を見つけたのである。
大柄な少年は「開けてみよう」と言い鍵に手をかけたが、小柄な少年は「やめようよ」と一応止めながらも、興味深そうに箱が開けられるのを見ていた。
がちゃがちゃと、錆びた鍵を乱暴に動かして錠前を外す。そうして箱を開けた時、少年たちは“訊ねられた”と言う。
曰く『何を望む』と。
二人はぎょっとして辺りを見回したが人の姿は見えず、顔を見合わせて首を傾げた。声はそれきりで再び少年たちに問いかけることはなかったが、二人はおずおずと口を開いていた。
大柄な少年はかねてから憧れていた大国の騎士になりたいと願った。
小柄な少年は大きな聖堂で祈りを捧げるような神父になりたいと願った。
口に出したものの特に何かあるわけでもなく、またあの声が聞こえてくるわけでもなく。
少年たちはビクビクしていた自分たちを笑い合って、結局そのまま家路へと向かったのだった。
――そして十数年後。
二人の少年は青年へと成長し、大柄な青年は近隣一の大国の騎士団長となり、小柄な青年は近隣で一番大きな教会の神父となった。
二人の願いは晴れて叶ったのであった。
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