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◆ ◆ ◆
肉眼で辛うじて捉えられる高さに浮かぶ巨大な飛空艇。遥か眼下に存在する広大な国を見下ろしながら、少女は深紅の髪を高く結わえる。ゴムに届かない両脇の髪が風になびいた。
「――本当に行くのか?」
少女の隣に佇む少年が問いかけるが、少女の心がすでに決まっていることを誰よりも分かっていた。ばたばたと、耳を凪ぐ風が痛い。
「引っ込めなくなるんだぞ? いいんだな」
「しつっこいってーの! んなこた分かってんの」
「でもお前のことだからなぁ……」
「黙れ馬鹿タヤク。どっちにせよ“あいつ”の回収もしなくちゃいけないでしょーが!」
「はいはい」
少年は慣れたように相槌を打ち、苦笑を浮かべる。その表情は少女ほどとは言わないが、それでも僅かばかり楽しんでいるように見えた。
そんな二人の会話が途切れたのを見計らったように、甲板に小さな影が現れる。
「ミカノお姉ちゃん、レイガお兄ちゃんが準備できたって!」
「そ。ありがとねマイリ」
「えへへ」
にっこりと笑う少女の頭を撫でてやり、甲板の真ん中に鎮座する拡声器へと歩み寄る。そこには青年が一人佇んでおり、「お、ミカノっち始めるんだね」と楽しそう笑った。
「よーやくね……おーい」
手渡された拡声器のマイクに向かって声をかける。その先は飛空艇内部の管制室へと繋がっていた。
「レイガー、本当にこれ使えんの?」
『当たり前だ。機械はレニの手製だから信用出来んだろうが、掛かっている術は俺のものなんだからな』
「ちょ、シツレーじゃね?! ミカノっち、レイガの魔法は激ヤバだけど、オレの造った拡声器はマジ激ヤバだから! 信じて!」
「ヤバいのに信じろと言うか」
大声で訴えてくる青年をジト目で睨みながら、レイガと呼んだ相手との回線を切る。そして、満面の笑みで面々を見回した。
「さって! タヤク、レニ、マイリ。やらかすからね」
少女はそう言いながら拡声器の回線を切り替えて、改めてマイクを握りしめる。そして、まるで世界中に響けとばかりに大声で宣言した。
『聞こえる奴はみんな聞けぇぇぇっ! あたしらは国王軍の馬鹿でも教会軍の阿呆でもないっ! 両方をぶっ潰す為に集まった“中立軍”だぁぁぁっ!!』
少女の声は拡声器を伝い、かけられた風の魔法に煽られ、眼下に広がる国の隅々までに行き渡った。
それは、長く続く戦争において、初めて第三勢力が表に出てきた瞬間でもあった。
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