序章:Beginning

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――先に誤ったのはどちらであったのか。 それは今では分からないことである。 ただ言えることは、二人が欲を持ってしまったということだけであった。 ある時騎士団長となった青年は自分が仕えるべき主の娘――国の第一王女に恋をした。身分違いの恋故に結ばれぬことは分かっていたし、王女には隣国の王子という婚約者がいた。それでも騎士団長となった青年は諦められなかった。 その時に何故か思い出したのは、少年時代に見つけたあの箱のことであった。 青年が急ぎ馬を走らせあの草原に行くと、その箱は確かにそこにあったが、箱の周りは小さな湖となっていた。湖の浮き島にぽつんと箱が置かれているのだ。 青年はわずかに首を傾げたが、かつてと同じように錠前を握り鍵を回し、箱を開けた。 ――二年後。 婚約者の国が他国に制圧されており、奴隷国家となるのを逃れるために王女と婚約を交わして自国の代わりに国を売ろうとしていたことを、騎士団長となった青年が嗅ぎ付け王に告げた為に婚約は破棄となった。 危うく隣国の代わりに奴隷として売られかけた国民は諸手を挙げて青年を褒め称え、時の英雄となった彼はかねてから恋焦がれていた王女と婚約を結び、次代の王となった。 一方で神父となった青年は、ある時国の在り方に疑問を持った。資産家や貴族の意見や要望、謁見に対しては二つ返事で許可を出す国王であったが、教会関係者に対してはあまりにも厳しかった。 国王の人を選別するようなやり方が神父になった彼には気に食わず、その時にふとかつて願った木箱のことを思い出した。 青年は草原の近くまで馬車に乗り込み、大分離れたところで降りて歩いてその場所へと向かった。あまり見通しの良くない森の中を進み、小さな泉に囲われた箱を見つけた青年はわずかに首を傾げたが、かつてと同じように錠前を握り鍵を回し、箱を開けた。 ――二年後。 国の中にある教会では納まりきらないほどの信者が自他国問わず増え、危険を感じた国王はその教会を国から排除した。それに納得出来なかった神父になった青年とその信者たちは国の外に大教会を建て、周りに住居を次々と作っていった。それらはあまりの規模となったため、非公認ながらも一つの国家として世界から扱われるようになった。 青年は信者となった人々から崇め奉られて、法王と名乗ることとなる。
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