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青年がポーシュのもとに預けられたのは、リオネルが微力ながら治療できる腕を持っているからである。青年の傷は深く完治とは程遠い状態だったが、それでも城を逃げ出したのは、中立軍と接触する期日が迫っていた為であった。
ジルたちは国王の手駒の動きを把握するためにダークたちの元へ。
青年はわずかな時間でも傷の治癒に充てるための選択であった。
「だって言うのに――まさかこんなことになるなんて」
「逃がした意味がないな。よほど運がないのか、あの王女サマは」
鼻で笑うようにゼインが言えば、むっと頬を膨らませたナギサが苛立たしげに口を開く。
「そんなこと言ってる暇があったらちょっと話を聞きに行くわよ! 姉貴、ツヤタのとこでいいのね?!」
「あいつ以外まともな治療の腕を持ってる人間なんて、この城にはいないでしょ」
そんなフウの返答を聞く前に、ナギサは部屋のドアを蹴破る勢いで早々に出て行ってしまった。残されたゼインとフウは開かれたままのドアを見るしかない。ナギサが駆けていく足音はどんどん小さくなって、やがて消えていく。
「ゼイン、あんた何しれっと残ってるのよ。ナギサの護衛役でしょう?」
「あのじゃじゃ馬についていくのは疲れる。それに……」
「それに?」と、首を傾げて問い返そうとしたフウの後ろ。
バルコニーから見える景色のその一点に、見慣れないものがあるのをゼインが気付く。
「どうやら王女が運がなくとも、元王子サマのほうは運を持っていたらしい」
「は?」
彼の言葉に、馬鹿にしたような呆れたような調子で返すフウであったが、すぐにその両耳を塞ぐこととなる。
『聞こえる奴はみんな聞けぇぇぇっ! あたしらは国王軍の馬鹿でも教会軍の阿呆でもないっ! 両方をぶっ潰す為に集まった“中立軍”だぁぁぁっ!!』
ほらな、と言わんばかりに鼻を鳴らしたゼインに「あぁそうね」と適当に答えながら、フウの瞳は空中に浮かぶ巨大な飛空艇を見つめるのであった。
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