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「いきなりだけどさ」
「ん?」
「殺し合おう」
「んー。…は?」
強い橙色の西日に染められた川沿いの小高い道に、二人の高校生らしき男女がいた。
二人とも会話もなくつまらなそうに、ずっと前を歩く老人の連れている大型犬や、遠くの山々を眺めながら歩いていた。
しかし少年は少女の急な発言に驚き、目を見開いて足を止めた。
少女は変わらないつまらなそうな顔で少年のほうを振り向いた。
少年は訊いた。
「マジで言ってる?」
「大マジ。さあ早くその腰に差した刀を抜いて命の奪い合いしようぜ。私の中の殺人狂はアップを済ませてる模様だぜ」
少女は平板な口調で言い、左手首を右手で押さえ、何度か捻ってみせる。
そして手を開いたり閉じたりする。
まるで今からその手で誰かを殴ろうとでもしているかのように。
そんな芝居がかった動作を見て、少年は少女が冗談を言っているのだろうと悟った。
「ねーよ。帯刀してる高校生なんているかよ」
呆れ顔で少年は少女の横を通り過ぎようとした。
その瞬間、少年は目の端で銀色の光を捉えた。
すれ違い様の一撃だった。
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