プロローグ

2/5
前へ
/834ページ
次へ
 ここが何処で、何という名の山なのかはわからない。しかしそんな人の手が殆ど入っていない鬱蒼とした山の中腹に、正に誰かが刃物で切った様な――切り立った崖が一つあった。 「う~ん。絶景かな! 絶景かな!」  少女は一人呟く。  切り立った崖の上。山中にはおよそ似つかわしくないセーラー服姿の少女。そんな少女が男勝りの胡坐姿で眼下に広がる風景を見下ろし呟いていた。 「西の軍およそ二万弱、限りなく鶴翼の陣に近い何か。東の軍およそ二万強、限りなく魚鱗の陣に近い何か……」  ――そう。彼女の眼下では今……屈強にして殺気立つ約四万にも上る兵士が槍や剣、鎧を身に纏い雌雄を決せんと対峙していた。  少女は考える。 (このままぶつかれば東の軍が圧倒的に有利。実際三方ヶ原の戦いでも徳川家康は兵が少ないのに鶴翼の陣を布き、魚鱗の陣を布いた武田信玄にボッコボコにされてう○こ漏らしてるからなぁ)  鶴翼の陣とは自軍をVの字に並べ、総大将をVの字の付け根の部分に置く陣形である。当然総大将の前の守備は薄くなるが敵がそこへ飛び込んで来た時に両翼を閉じ、包囲殲滅する陣形である。  なので兵数の少ない方がこの陣を布くのは下策とされ、総大将(の部隊)には両翼を閉じるまで耐え凌ぐ強さを求められる。  対して魚鱗の陣は自軍を三角形に置く陣形である(▲こんな感じ)。総大将は三角形の底辺真ん中に置き、守備も堅く中央突破に強い。  但し外側の部隊しか戦闘に参加出来ず、遊兵が増える事と陣を布くのに多くの兵を要するのが難点だが、布ければ鶴翼の陣に圧倒的な強さを誇る。  少女は続ける。 「もしあたしが西軍の指揮官なら激突前に鋒矢の陣に切り替えて、中央突破で敵遊兵を増やしつつ指揮系統を滅茶苦茶にして勝機を見出すかな? でもでも、あたしが東軍の指揮官なら更にそこで激突する前に鶴翼の陣に素早く切り替えちゃうかなー?」  鋒矢の陣――自軍を矢印(↑こんな感じだが実際は傘の部分がもっと長い)の様にする陣形で総大将は傘とは逆の最奥に置く。見た目通り中央突破に特化した陣形で、魚鱗の陣と違い寡兵で布く事が可能で小回りもこちらの方が利く。
/834ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3664人が本棚に入れています
本棚に追加