プロローグ

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 正面と側面から偵察された際、兵を多く見せる事も出来るが後ろと上から見られると中身がスッカスカなのがバレる。しかし考え様によっては遊兵が少ないという利点もある。  とはいえ魚鱗の陣と違い中身はスカスカなので側面からの攻撃に余り強くなく、そこから包囲されると脆い。  実戦では関ヶ原の戦いで島津義弘が退却する際に用いた事で知られている。  義弘はこの陣形で敵中突破を試み、更には捨て奸という凄絶な戦法を用いて多大な犠牲を払い退却に成功する。これは後に「島津の退き口」と呼ばれる様になった……。  上杉謙信は幼少の頃、巨大な(約二メートル四方の)城のジオラマと兵士や兵器の駒を使って今で言うところのシミュレーションゲームに熱中し、それが後に武田信玄と互角に渡り合う戦術の礎となったと言われているが……どうやらこの少女はそれと似た様な事を――実際の戦場で行っている様だ。 「いや~豊臣秀吉は大谷吉継に百万の軍を指揮させてみたいって言ったらしいけど……わっかるわ~その気持ち」  少女はスカートから露になった自らのフトモモをパシーンっと叩く。 「あたしなんて高々四万の軍勢を見ただけでこれだけ興奮しちゃうんだから……百万の軍勢なんて言われたら失禁しちゃうわね……」  という様な事を言いながら恍惚顔で空を眺める少女。 「……それを自在に操れるだけの力量を持っていたとされる吉継。流石は幸村の義理のパパ。あ~~~そんな人が指揮しているところを隣で見てみたいっ!」  この「幸村」とは当然「真田信繁」の事だ。そして少女の興奮が頂点に達した時だった。 「あの~お館様?」  声の方へと少女が振り向けば、そこには年の頃なら十二、三歳くらいか……白いベレー帽に白いマントを身に着け、眼鏡を掛けた少年が立っていた。 「何よ?」  自分の世界に浸りきっていたのを阻害されたためか、少々膨れっ面で少女が返事をすれば……。 「いや、あの……本当は別の事を言おうと思ってたんですが……鼻血出てますよ?」 「うぞっ!」 「うそっ?」と言いたかったのだろうが鼻血と驚愕が相俟ってこんな言葉になってしまったのだろう。少女は少年の言葉に慌てて自らの鼻に手を宛がう。  そして見れば――確かにそこには赤い液体が……。
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