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「行きたいのは町のサッカークラブ。しかも、見学だっつの。中学の近くに練習場があったじゃろ。
Jリーガー間近で見られるから、遊びに行きたいとは言ってたけど」
「え。一緒に高校になったらそこのユース入ろうって、言わなかったっけか?」
「言ってない。俺、普通高行ったじゃろ。ユースのトライアル、受けてもないし」
「それはさ、中学でレギュラーとれなかったからって……」
「ま、それもあったけど。どうやっても、スポーツって才能じゃろ。俺は違うって、やってたらわかる」
「そこは努力友情勝利……じゃなくて、努力してみないとわからんやん」
「少年ジャンプか、お前は」
「じゃあ、なんで」付き合ってくれたのか、と言いかけて、こいつ、まじで俺に付き合ってくれたのか、
と釣り糸から初めて目を離して松崎を見た。
あれ、こいつ、こんな顔だったっけ? けっこう、彫が深くて色が黒くて、中東の人っぽい。
ああーこんな奴と、ユースの時、対戦した覚えがある。
足、マジにえぐられた。怪我で交代したから、忘れねえ。
てか、本当に外人に見えてきた。
お前、誰だ。ほんとに松崎か。声は松崎だが。
という俺の馬鹿な混乱をよそに、穏やかな笑みを外人っぽい松崎は浮かべた。
笑うと怖くない外人だ。
「俺、お前すげえなって思うんよ」
「なにがよ」
「にらむなよ。マジな話。
中学の時はそんなに目立ってたわけでもなかったのに、
ちゃんとユースのトライアルうかったじゃろ」
「補欠だし」
「なんだかんだと、ユースの代表選ばれて」
「控えだし」
「そうそう。そんな感じで、うだうだ言いながらも、プロになって。
そうこうしているうちに、試合にも出て」
「でも」
「レギュラーとれないって言うけど。スタートに立てる事態でやっぱ、俺らとは違うじゃろ」
「でも、まっちゃんだって、続けてたら」
「続けられんし、続けようとも思わんかったんじゃって。
それが悔しいかっていうと、そうでもないし」
そんなん、いいわけじゃん、と言おうとした俺を、松崎はほんとに穏やかに笑って制した。
「俺、ときどき、町まで会社の奴と試合を見に行くんだわ。けっこう、ガチでサポーターやってて」
外人にしか見えない松崎は、本当に楽しそうに笑う。
「みゆきと幼馴染って言うたら、もう、うらやましがられるわけよ。
よ、地元の有名人。サインもらってこいっていつも、言われるんよ。
なんか、それもうれしくてさあ。
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