第1話

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「相変わらず、下手」と言われながら。  パチンコで当たりが出る感じなのか、俺にしては奇跡的に魚が食いつき、バケツにすこしずつ、増えていく。 小さいのをリリースする余裕すらある。 「テレビは録画」と言われて、だいぶ前の俺のたどたどしい質問の答えだと気づくのに、ちょっと間ができる。 「昨日の夜に帰ってきた。テレビはそんときのだろ。大変だった」 「ああー、なんか大騒ぎだったな」 「ちがうちがう。ナリコレで、キャプテンに駄目だしされてさ。トイレで着替えて」 「ナリコレ?」 「成田コレクション。代表になって知ったけどさ。テレビに映るからって、みんなすげえよ、服選ぶの」 「お前、なに着てたん」 「これ?」と言って、涼はいま着ている、Tシャツとひざまで折り曲げたスウェットのボトムスを引っぱった。 「そりゃ、駄目だしだわ」 「アディダスなのになあ」涼は本気で、頭をひねる。 「けっこう、高かったのに」 「昨日はそのまま、成田に泊って、今朝の朝一で飛行機乗って、あとはバス。案外、はやくついた。僻地のわりに」 「うっせ」  ひとこと多い涼のいつもの調子に、笑った。  なにか日常に「帰ってきた」感じがする。島の生活のほうが日常感まるだしなのに、テレビのなかにいた涼がここにいることのほうが非日常なのに、さっき松崎と話していたときのほうが、別世界のような気がする。 「さっきの奴、同級?」 「うん。中学のときまで部活も同じ」 「キーパーっぽい」 「あたり」 「へえ」と言ってひとことなにかよけいなことを言おうとした涼の前に、俺が言った。 「おっさんぽい?」 「……あたり」  ふたりで笑う。  そういえば、涼はクラブの下部組織ではなく、高校のサッカー部からだったなあと思いだす。 涼は三年のとき、全国でベスト四くらいまで行ったんじゃなかったか。 それでも同級生がプロに行ったやつなんて、そうはいないだろう。 ましてや、代表に選ばれた奴なんて。 「俺ときどきさあ、高校んときのやつと、オフに帰った時、一緒に練習したりする」と涼が言う。 「へえ」 「すげえ、楽しいんだよな」 「お前についていけるんか」 「んなわけないじゃん。ついていかれて、たまるか。 ついていけずに、みんなひいひい言ってる」 「だろうな」 「けど、それも楽しいんだよな。たぶん、あいつらも」  体育座りしている涼の足は、傷だらけだ。それは俺も同じ。
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