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「相変わらず、下手」と言われながら。
パチンコで当たりが出る感じなのか、俺にしては奇跡的に魚が食いつき、バケツにすこしずつ、増えていく。
小さいのをリリースする余裕すらある。
「テレビは録画」と言われて、だいぶ前の俺のたどたどしい質問の答えだと気づくのに、ちょっと間ができる。
「昨日の夜に帰ってきた。テレビはそんときのだろ。大変だった」
「ああー、なんか大騒ぎだったな」
「ちがうちがう。ナリコレで、キャプテンに駄目だしされてさ。トイレで着替えて」
「ナリコレ?」
「成田コレクション。代表になって知ったけどさ。テレビに映るからって、みんなすげえよ、服選ぶの」
「お前、なに着てたん」
「これ?」と言って、涼はいま着ている、Tシャツとひざまで折り曲げたスウェットのボトムスを引っぱった。
「そりゃ、駄目だしだわ」
「アディダスなのになあ」涼は本気で、頭をひねる。
「けっこう、高かったのに」
「昨日はそのまま、成田に泊って、今朝の朝一で飛行機乗って、あとはバス。案外、はやくついた。僻地のわりに」
「うっせ」
ひとこと多い涼のいつもの調子に、笑った。
なにか日常に「帰ってきた」感じがする。島の生活のほうが日常感まるだしなのに、テレビのなかにいた涼がここにいることのほうが非日常なのに、さっき松崎と話していたときのほうが、別世界のような気がする。
「さっきの奴、同級?」
「うん。中学のときまで部活も同じ」
「キーパーっぽい」
「あたり」
「へえ」と言ってひとことなにかよけいなことを言おうとした涼の前に、俺が言った。
「おっさんぽい?」
「……あたり」
ふたりで笑う。
そういえば、涼はクラブの下部組織ではなく、高校のサッカー部からだったなあと思いだす。
涼は三年のとき、全国でベスト四くらいまで行ったんじゃなかったか。
それでも同級生がプロに行ったやつなんて、そうはいないだろう。
ましてや、代表に選ばれた奴なんて。
「俺ときどきさあ、高校んときのやつと、オフに帰った時、一緒に練習したりする」と涼が言う。
「へえ」
「すげえ、楽しいんだよな」
「お前についていけるんか」
「んなわけないじゃん。ついていかれて、たまるか。
ついていけずに、みんなひいひい言ってる」
「だろうな」
「けど、それも楽しいんだよな。たぶん、あいつらも」
体育座りしている涼の足は、傷だらけだ。それは俺も同じ。
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