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「おかえり」
そう僕が呟いてる最中、親父はずっと僕の体の一部分にだけ視線を集中させていた。
「それ俺が注文したジーンズだろ」いつもは物静かな親父は急に大声をあげたのでとても驚いた。「ただ穿いてみただけだろ。いいだろ少し位」
「あ、ああ。そうだな。」親父は自分が思っている以上に声をあらげていたことに気がついたらしく少し小さな声で喋った。
「どうして今日遅かったの」
「ああ、少しやらなきゃいけない仕事が残っててな。夢中でそれを片付けてたら連絡するのを忘れてしまってたんだ」
なるほどと思いながらもどうしてそんなことを忘れられるんだと自分の親父のことながら呆れた。「じゃ、飯にすっか」
「今日はなんだい」
「冷しゃぶ」
「いいねえ」
「ゴマだれあるかい?」親父が黙々と冷しゃぶを食べている姿を僕はただ黙って眺めていた。
「ああ、あるよ」
「よろしく」
冷蔵庫からゴマだれの容器を取り出す
「ありがとう」
「部活の方はどうだい」唐突に質問してきた。
「あっついからなー。汗が」
暑さでバテているような表情を示したので、親父が同情するかのように笑った。
親父から質問してきたので今度はこちらから質問する。
「あのジーンズってどこのメーカー?oyajeansとか書いてあったけど」
「ジーンズの話は飯の後でな」
いきなり返答されたのでびっくりした。
それから親父が飯を食い終わったあと何度かあのジーンズのことについて質問したが、しらを切りとおされるばかりだった。ベッドに入ってからもあのジーンズのことが頭の中から離れず、寝付けずにいた。
あのジーンズはまるで生き物のように、僕の体に同調してきたのだ。何か秘密があるに違いない。
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