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それからというもの、親父の帰りはどんどん遅くなっていった。
今では6時を越えるのも当たり前になり、一度怒鳴り付けてみたものの「仕事が忙しいから」の一点張り。
そんなはずはない。いくら仕事が忙しいからとはいえ、連日続いてるのはどう考えてもおかしい。もしや女でもできたのではないか。
女と一緒にいる時間を増やすために、こうやって最近仕事が忙しいように振る舞ってるのではないか。
しかし、それも仕方のないことなのかもしれない。
僕の母親、菱川悦子は僕が小校四年の時に親父と離婚した。原因はどうやら母親の不倫らしい。
結局、母親は不倫相手の男と結婚するために多額の慰謝料を親父に支払い、逃げるように僕ら家族の前からいなくなった。離婚当初、親父はまだ悦子の面影を追い続けていたようだった。僕の部屋は父の部屋と薄い壁に遮られているだけだったので、ベッドの上でよく父の嗚咽を耳にした。
愛する妻に裏切られた親父。
親父にだって恋愛する権利があるはずなんだ。
むしろ誰かと一緒に幸せに暮らしてくれた方が僕も嬉しいのかもしれないな。
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