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僕も夢中でそのあとを追いかけた。
路地裏を抜けて、親父は廃工場の中に入っていった。
親父が出てくるまで入り口で待つことにする。
10分位してようやく入り口から人の影が見えた。
やっとか、と思いつつその人物に目を凝らした。しかし、それは親父ではなく、見知らぬ青年だった。
白いシャツを着て、爽やかな印象の彼はこちらに近づいてきた。
僕は慌てて、近くにあった機材の影に身を隠した。
青年は、僕の存在には気づかず、そのまま街の方へと向かっていった。
「誰だろう。工場の人か。」それにしては若すぎるし、何よりこの古ぼけた建物とあの青年が醸し出していた雰囲気は明らかに不釣り合いだった。僕は少しだけ頭の中で通りすぎていった青年のことを考えながら、当初の目的である親父が工場から出てくるのを待った。
しかし、一向に親父は出てこようとはしなかった。
僕は次第に照りつける日差しとアスファルトから発される熱気に耐えきれず、とりあえず工場の中に入ってみることにした。
工場の中はまるで空っぽだった。あるのは隅っこの方に散らばっている瓦礫だけで、親父が隠れるような所はどこにもない。
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