0人が本棚に入れています
本棚に追加
おかしい。先ほどからかいていた汗が、更に勢いを増すのを感じた。
この工場には入り口と呼べるのはひとつしかない。その入り口というのはさっき僕が見張っていた場所のことだ。あの青年以外の人物でそこから出てきたものはいない。
だとしたら親父はどこへ消えたのか。
ふと一つの答えが頭に浮かんだ。
しかし、それはあまりに突拍子のない考えだと気づき、頭の中から払拭しようとしたが、とうとうそれが紛れもない真実なのだという考えに至り、からだが震えた。
つまりあの青年こそ俺の親父なのだ。
そう結論付ける根拠が一つある。
それは、あの青年が身に付けていたある物のことだ。
OYAJEANS。
あの青年が身に付けていたジーンズは紛れもなく、数日前親父の目を盗んで履いたそれと全く同じ形、同じサイズだったのだ。
工場を飛び出し、路地裏の道を駆け抜けて、商店街の通りに飛び出した。そこで僕は異様な光景を目の当たりにした。
誰もいない。
さっき通ってきた時には大勢いたはずの通行人が全く見当たらない。
それどころか、自分以外の生き物という生き物がさっきの数十分の間の出来事のためにこの地球から一気に姿を消したのではないか、とさえ感じられた。
得たいの知れない何かがこの惑星には存在し、それが急に動き出したのだと思った。
僕は訳がわからなくなり、とにかく誰かに会いたくて、夢中で町の中心部へと続く方向へ走り始めた。
最初のコメントを投稿しよう!