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「逃げたければ逃げていい。でも、俺は追いかけて捕まえて、何度だって君をこの腕の中に閉じ込める。君は俺の『青い鳥』だから」
「は……何言って……」
「本気なんだが?」
真顔で言われ、笑おうとして失敗した。
頬が涙で濡れる。
そこにまた唇が触れる。
「幻」
「バカだろ、あんた」
「バカで結構。幻をずっと側におけるなら、喜んでその称号を受け取るさ」
「カッコ良すぎなんだよ、ばぁか」
嬉しくてこんなに泣けるなんて思わなかった。
子供みたいにぼろぼろ泣いて、一志にしがみついた。
「ほら、いい子だからもう泣かないで」
「泣かせたの……一志だもん」
「そうだね」
労るように抱かれ、俺はまたそれに縋る。
「帰ろうか」
「うん」
言われ、涙を拭おうと少し離れたら、軽々と抱え上げられた。
「かず? 俺、自分で歩ける」
「誰も見てないんだから、幻のすべてを堪能しながら帰る」
「やっぱかずはばかだ」
「馬鹿でいいってさっきも言ったろう。この幸せが、当たり前なのだと思えるように、思ってもらえるように、君を甘やかすつもりだから」
その言葉に、また泣きたくなった。
それを誤魔化すように、一志のくびもとに腕を回す。
「おうち帰ってイチャイチャしたい」
「はいはい」
含み笑いをしながら一志は歩きはじめた。
人通りの少ない道。
囁かれた愛の言葉。
遠くで響く誰かが走っている足音さえも、それを邪魔することなく耳に届く。
ああ、なんて幸せなんだろう。
この幸せが、本当に当たり前になんかなるんだろうか、って不安にもなるけれど。
今はこの甘美な時間に身を委ねようと思った。
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