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「待ち合わせの相手がくるまででもいいから、してたほうがいい。すでに鼻も赤いから、かなり前から待ってるでしょ? 風邪ひいちゃうよ」
「ありがとう」
冷えきった手が、自分の意志で手袋を握ってくれた。
「連絡先、教えて貰ってもいいかな。お礼がしたい」
「礼なんてこっちが言いたいくらいだよ。俺の恋人はきっかけがないと甘やかしてくれないから」
嘘を交えて言えば、何故か彼が頬を染めてはにかむ。
おやまぁ、なかなか可愛いじゃないか。
「幻」
「あ、今行く! じゃあね、お兄さん。縁があったらまた逢おうね」
一志に名を呼ばれたのをきっかけにして、鳥居から離れる。
一志のもとに駆け戻り、その胸に抱き着いた。
「どうだった?」
「ん、受け取って貰えた。今嵌めてるみたい」
振り返れば、渡した手袋をした手を振っている。
「と言うわけで、手、繋ぎたい」
一志は無言で手袋を片方だけ外して俺の手に嵌め、素手を握って一志のコートのポケットに突っ込んだ。
「これで満足かな? お姫様」
「気障な一志も大好き」
「それはそれは、恭悦至極」
慇懃に言う一志に、思わず吹き出す。
一頻り笑って、ポケットの中で一志の手を強く握った。
「一志、好き」
「幻?」
「俺を、放さないで」
「放さないよ。例え君が嫌がっても、手放す気なんてない」
握り返して来る手に、安堵を覚える。
今が幸せ過ぎて、辛い。
この幸せが、いつまで続くか判らないから。
「幻」
「な……んっ」
名を呼ばれ、恋人の方に顔を向ければ、口づけられた。
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