置いてきぼりずむ

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くるりと回って壁を蹴る。ぐうっ、と身体が水を切るように進む。この瞬間が、あたしは世界で一番好きだった。 三人で喋るよりも。 とん、と壁にタッチ。 「……ふー……」 プールサイドに座って、ため息をついた。じぅー、とスポーツドリンクを飲んでたら、ふわりとタオルが肩にかかった。 「先輩、相変わらず速いですねぇ」 「また見てたの、理苑(リオン)くん。変態?」 「酷くねぇっすか。ついでに言えば独りで泳ぐとか、なにやってるんですか」 「別にいいでしょ」 ちゃぷん、とプールに入ったのは一個下の後輩だった。こんがりと日焼けしていた。因みに小柄で、あたしより身長が、二、三センチは低かった。 するり、とあたしもプールに滑り込んだ。小さく水が跳ねた。 「プールに入るんなら、俺か誰かが来てから、って約束でしょ。監視員のお爺ちゃんじゃ心配だし」 「君よりあたしの方が泳ぐのは上手い」 だから、平気。と言ってみた。
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