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緑豊かな農村の一軒家。そこの長男として生まれた俺は、リビングでのんびり飯を食っていた。
俺、テーブルを挟んで対面に親父、その隣にお袋というのが定位置だ。我が家では米農家という事も関係するのか、飯を食う時は喋らないのがルール。その為、視線は流しっぱなしのテレビへと向く。丁度ニュースで『魔王復活!?』なんて特集が組んであった。
「そうね、アル、魔王を倒しなさい」
「……は?」
突然、回覧板を回してこいぐらいの軽い調子で口にしたのは我が家で最も権力を持つ母上様だ。アルとは俺、アルフレッドだろう。さまようよろいではない。ちょっと意味わかんないんですけど……。
「そろそろ高校を卒業して半年になるでしょう? 就職氷河期とか言って仕方ないと思っていたけど……最近は家に籠もってゲームばかりしてるし、丁度良いじゃない」
正論だった。しかし、こんな時の言い訳も用意してある。
「いや違うんだよ母さん! 俺がパソコンをやるのには理由があるんだ! これからの時代、ネットは必須ツールになるんだ! ゲームをやっているように見えて、クリエイティブでセンシティブな活動なんだ!!」
ふふふ……所詮は田舎者の情弱、適当に横文字を入れておけば納得する……と考えていたのだが、
「まあ、いいからやってみなさい」
しかしかあさんはきくみみをもたない▼
「え、ちょっ……そもそも、そういう仕事って保険も効かないし……」
「いいからやれ」
「その、俺には現場よりデスクワークが合ってるというか……」
「いいからやれ」
駄目だこれ無限にループする奴だ!?
「……ねえ、なんで魔王なの? せめてコンビニのバイト辺りじゃない?」
「目に入ったもの」
「…………俺って実は、古の勇者の末裔だったりする?」
「そんなわけないじゃない。ねえ、お父さん?」
「……うむ」
ずっと黙っていた親父が腕を組み、無駄に偉そうに頷いた。尻に敷かれてる癖に。
「ああ、そうそう。勇者アルの件とは全然関係の無い事だけれど、最近輸入米が増えてお米の値段が下がっちゃったから、家計が苦しくて困ってるのよね。ねえ、お父さん?」
「……うむ」
く、く、口減らし(某巨人漫画で覚えた単語)だぁーっ!? しかも既に勇者扱いだと!?
いっ、嫌だ! 俺は家を出たくない! 働かないで食う飯はこんなにも美味いんだ!
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