触れられて、忘れられて

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腰に回された腕に力が入ったと思った時、視界がぐるんと回って、しっかりと抱きしめられていた。 誰に……? 崎田さんでなく、戸川君に。 戸川君の胸に顔を埋めて彼の息遣いを感じながら、私は不思議に安堵していた。 「紗衣……?」 崎田さんの声がした。 私を呼ぶその声に、戸川君の腕の中で、思わず体がビクッと震えた。 こちらに近づく足音。 動揺に堪らず、崎田さんの方を向こうと身じろぎして上げた顔を、戸川君の手がぐいっと捉えた。 間近に見つめ合った彼の目の奥に揺らいだのは、何……? ためらいのような一瞬の間。 「紗衣」 再び崎田さんの声がしたその時、 「んっ……」 戸川君が私の唇を塞いだ。 見開いた私の目に映るのは、戸川君の閉じた目と頬と、そしてその向こう側に、驚いて立ち止まる崎田さんの姿。 二度と信じることのできない、もう終わってしまった恋。 ……そうだ。 彼と積み重ねてきた日々はもう、終わったんだ。 強く抱き寄せる戸川君の腕に体を預けて、そっと瞼を閉じる。
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