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「……」
「……」
どちらとも何も言葉を発することなく、しばらくの沈黙の間、相川君の髪から滴り落ちる雫を見ていると。
不意に、相川君が口を開いた。
「沖縄、暑いね」
相川君の言葉に、あたしは少し拍子抜けした。
何が、とか
どうした、とか
そういう類の言葉が出てくると思っていたから。
「……うん、暑い」
あたしは鼻をすすり、立ち上がった。
「……」
「……」
そして再び訪れる、沈黙。
……出来れば今は、1人になりたい。
相川君には失礼だけど、話をする気分になれないから。
だからあたしはこの場から去ろうと思い、「じゃあ」と言って相川君の横を通り過ぎようとした。
「ジュース、奢ってあげるよ」
「……え?」
「ほら、何がいい?」
相川君はあたしの通路の隅にあった自販機に小銭を入れ、あたしを真っ直ぐ見ていた。
……早く決めてって、感じる。
あたしは相川君から感じる雰囲気に飲まれ、溢れかえっている感情を奥に一時押し込めてから、自販機に視線を泳がせた。
「あっ、えっと……オレンジ」
「ん」
ガコンッと、勢い良く落ちてくる音が聞こえた。
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