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「……クっ……」
レオは言葉に詰まった。
目の前で自分に背を向け地面に水を撒く金髪の女の名はヒューガ・エストラーダ。
それは分かるのだが、彼女をどう呼べばいいのか分からない。
思わず「クソ女」と呼びそうになって咄嗟に押さえ込んだところが今だ。
ヒューガ?
ヒューガさん?
ヒューガちゃん?
どれも性に合わない。
年下に見えるが本当に年下なのか?
雰囲気は多少なりとも俺より大人びている。
呼び捨てはまずいだろうか?
だが目上目下の礼儀を弁えるような育ちでもない。
まあ仮に失礼だったとしても、ここで下手(したて)に出るよりは…
「こんばんは、レオさん」
「がっ!!??」
……最悪だ。
顎に手を当てて考えているうちに、ヒューガに先手を打たれた。
だが、レオが怯んだのはそれが咄嗟の出来事であったためだけではない。
彼女は、何事もなかったかのような笑顔だったからだ。
「先ほどは申し訳ありません。気の利いた返答ができなくて」
「いや……だいぶ落ち着いた。もう気にしてねぇ」
「そうでしたか。なら良かったです、許していただけたようで」
ヒューガはそう言いながら、咥えていた煙草の火を素手で揉み消した。
カジュアルな服装と流麗な金髪とヒマワリのような笑顔をぶら提げたこの女は、手に高水圧洗浄機と煙草の吸い殻を持っている。
この景色は不思議で、とても魅力的だ。
魅力的?
そうだ。
この女、よく見るとわりと整った顔立ちをしている。
東洋人の顔は嫌いだが、この女の笑顔は不思議と美しいと思えた。
これであとは、この破壊的に空気を読まない性格さえなんとかなればいいのだが。
レオはその笑顔の少し下にある胸倉を掴み、「クソ女」と罵った。
クソは、どっちだ。
「……いや、本当に悪いのは俺さ。レースにも負けて、カッとなって暴言吐いて……クソなのは俺のほうだ」
「……ふふっ」
ぞくり。
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