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不快というほどではない。
だが冷たい何かが背中を伝う。
嗚呼、また感情に流されて口が動いた。
ヒューガはまたニコリと笑い、そして洗浄機を置く。
その笑顔は、今までのものとは少しだけ違うような気がしてならない。
なんというか、勝ち誇ったような笑顔だった。
つまり、レオの立ち位置がヒューガの下についたのだ。
お互いに頭を下げ合って終わりにしようと思ったのに。
どうやらヒューガはレオが頭を下げるのを待っていたらしい。
……ここまでの考察ができるほどに、此度のヒューガの笑顔は意味深だった。
「何をしていただけるんですか?」
「はぁ?」
「私、現金な性格なんです。謝罪のお言葉は要りませんよ。……レオさん。あなたは私に何をしてくれますか?」
訂正。
俺はクソだが、この女もやっぱりクソだった。
優雅に腕を組み、これでもかと言わんばかりにその整いすぎたボディーラインを強調する。
ナヨナヨした印象は壊れた。
なんだその挑戦的な目線は。
何をしてくれるかだと?
その目線とポーズを向けられては明後日方向の展開しか思い付かない。
食事に誘えと言っているのか?
いいや、嫌だ。
クソクソ言い過ぎたせいで、この女とはもう美味いメシを食えない。
「……何を言い出すんだよ。だったらお前、上手い返答ができなくてとか俺に謝ったよな?」
「はい、申し訳なく思っています」
「お前は俺に何をしてくれるってんだよ。あぁ?」
「質問を返すようですが、私に何をして欲しいですか?」
「うっ……それは……」
嗚呼、ダメだ。
言葉のキャッチボールができないわけではない。
ただ、レオがボールを投げると石になって返ってくる。
石に対してナイフを投げると、今度は日本刀になって返ってくる。
泥沼だ。
何を言っても、レオの立場はヒューガの上へは戻れない。
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