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「ふふっ……意地悪が過ぎましたかね。レオさん、実は一つお願いがあります」
興ざめしたらしい様子を見せるヒューガ。
レオはしばし胸を撫で下ろす。
だが、何だ?
お願いだと?
承りたいなどとは微塵どころかさっぱり思わない。
「何だよ」と返すレオは少しだけ不機嫌そうに見えた。
ヒューガは両手をパーカーのポケットに突っ込む。
そしてほとんど間を置かず何かを取り出す。
黒い手袋をした右手と手袋をしていない左手。
それぞれキーを持っていた。
右手はランボルギーニ、左手はホンダのエンブレムが埋め込まれたキーを。
「今、車が二台あるんです。どちらかを運転して私のガレージまで運んで頂けません?」
「二台? ああ、ムルシエラゴとあのミニバンか。……二台も持ってきたお前が悪い。俺には関係ねぇぞ」
「ご都合が悪いので?」
「いや、用事があるわけじゃねぇけどよ……お前を送迎したあとはどうすりゃいいんだ? 俺のゾンダはここに置きっ放しで、ついでに俺を泊めてやろうってのか?」
「帰りは私がなんとかします。男性を家に泊めるのはいいんですが、レオさんには少しだけ拒否反応を起こしてしまいます」
「うるせぇな!! 俺のほうこそまっぴらごめんだ! ……よし、いいこと思い付いたぞ」
「いいこと、ですか?」
「ああ。ジジを使って三台で行けばいい。俺のはジジの車に乗って帰る。そうすりゃお前と夜を過ごすような最悪の一日にならずに済む」
「なるほど、素晴らしい提案だと思います。ジジさんはまだどこかにいらっしゃるので?」
「はぁ? 俺の後ろにいんだろ。親友の俺が帰るの待ってくれ…」
てんだよ。
と続けようと振り返る。
ジジはそこに居て、レオなりに考えた素晴らしい提案を実現してくれる。
……それは幻想だった。
ジジ、帰宅。
デンジャーカラーのワーゲンバスの姿はどこにもなかった。
帰りやがった。
あのチビ、帰りやがった!!
俺を置いて!!
「同情してあげたほうがいいですか?」
「俺に聞くな」
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