空気を読まない女

11/12
前へ
/29ページ
次へ
「ふふっ……意地悪が過ぎましたかね。レオさん、実は一つお願いがあります」 興ざめしたらしい様子を見せるヒューガ。 レオはしばし胸を撫で下ろす。 だが、何だ? お願いだと? 承りたいなどとは微塵どころかさっぱり思わない。 「何だよ」と返すレオは少しだけ不機嫌そうに見えた。 ヒューガは両手をパーカーのポケットに突っ込む。 そしてほとんど間を置かず何かを取り出す。 黒い手袋をした右手と手袋をしていない左手。 それぞれキーを持っていた。 右手はランボルギーニ、左手はホンダのエンブレムが埋め込まれたキーを。 「今、車が二台あるんです。どちらかを運転して私のガレージまで運んで頂けません?」 「二台? ああ、ムルシエラゴとあのミニバンか。……二台も持ってきたお前が悪い。俺には関係ねぇぞ」 「ご都合が悪いので?」 「いや、用事があるわけじゃねぇけどよ……お前を送迎したあとはどうすりゃいいんだ? 俺のゾンダはここに置きっ放しで、ついでに俺を泊めてやろうってのか?」 「帰りは私がなんとかします。男性を家に泊めるのはいいんですが、レオさんには少しだけ拒否反応を起こしてしまいます」 「うるせぇな!! 俺のほうこそまっぴらごめんだ! ……よし、いいこと思い付いたぞ」 「いいこと、ですか?」 「ああ。ジジを使って三台で行けばいい。俺のはジジの車に乗って帰る。そうすりゃお前と夜を過ごすような最悪の一日にならずに済む」 「なるほど、素晴らしい提案だと思います。ジジさんはまだどこかにいらっしゃるので?」 「はぁ? 俺の後ろにいんだろ。親友の俺が帰るの待ってくれ…」 てんだよ。 と続けようと振り返る。 ジジはそこに居て、レオなりに考えた素晴らしい提案を実現してくれる。 ……それは幻想だった。 ジジ、帰宅。 デンジャーカラーのワーゲンバスの姿はどこにもなかった。 帰りやがった。 あのチビ、帰りやがった!! 俺を置いて!! 「同情してあげたほうがいいですか?」 「俺に聞くな」  
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加