交通ルールを守る女

2/14
前へ
/29ページ
次へ
違和感。 激しい違和感が複数。 レオは今、ヒューガが登場時に乗っていたオデッセイを運転しており、前を走るムルシエラゴに追従している。 ムルシエラゴの運転席はヒューガの聖域のような気がしてならず、結局この日本車、ホンダ・オデッセイを選んだ。 右ハンドルに違和感。 対向車線が見えない。 このオデッセイとかいう車、思っていたよりもハンドルについて来る。 しかし右ハンドルの車を運転するのは生まれて初めてだ。 例えようのない違和感を背負っている。 前を走るムルシエラゴのテールランプは、悔しいが唯一の灯火だ。 ムルシエラゴは先程のレースとは別人が運転しているかのよう。 ドゥオーモを名残惜しげに通り過ぎた後、ミラノ特有のごちゃついた小道を通ってこのコルシカ通りに来た。 ヒューガの意外な一面はその小道で発揮。 法定速度は守るわ、黄色信号で停まるわ、歩行者に道を譲るわ。 逆に他の車に道を譲られた際にはサンキューハザードを焚く始末だ。 モラルの塊じゃないか。 周りに気を配れない女だと思っていたが、運転では違うらしい。 それがまた違和感。 そしてもう一つ違和感がある。 ……道に覚えがありすぎる。 というか、今日のレースはこのルートを通ってアルコ・デッラ・パーチェ広場に向かった。 このままコルシカ通りを西に進み続けると、南北に貫く高速道路A51と交差する。 その少し手前。 一つ前の大きな交差点を右折してマルコ・プルト通りに入ったとすると、完全なるレオの帰宅コースとなる。 まあ、恐らくここは直進してさらに向こうへ行…右折しやがった。 まさかヒューガはレオの自宅を知っていて、何かしらの目的があって向かっているのか? いや、困る。 困るし意味が分からない。 そして二台の車はやがて県営団地に入る。 この最深部のアパートの某部屋がジジ、そして某部屋がレオの自宅だ。 まさかの自宅だ。 嗚呼、ジジは帰宅していたらしい。 アパートの前には彼のワーゲンバスが停まっていた。 普段はその右隣にゾンダを置いている。 ヒューガには何かある。 俺の部屋に用があるに違いない。 目的が分からない! ムルシエラゴがブレーキをかけた。 ───二台が停車したのは、レオのアパートの隣の宅だった。  
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加