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他の男であれば、この美しく微笑む美女の肩を抱き締めたいと思うことだろう。
だがレオの場合は、この下品にニヤつくクソ女の首を絞め落としたいと思っている。
先程来た道を戻り、左折して再びコルシカ通りへ。
今度は東へ向かう。
夜明けも近いため車はまばらで、飛ばせば10分くらいで着く。
だがあまり飛ばせない。
なぜなら左隣に女がいるからだ。
クソ女と分かっているのに、身体はどうしても“上手い運転”を心がけてしまう。
モラルのある男を装ってしまう。
クソ女と分かっているのに。
このクソ女が美女であることは、認めたくないが事実だ。
いつの間にか煙草を吸い、いつの間にか吸い終えて吸殻を灰皿にしまった。
煙に臭いがなく全く気付かなかった。
煙草にしては珍しい黒い煙を吐いている。
優雅に長い脚を組み、外の景色にたそがれるその姿は、レオが目にしたどの女性よりも絵になる美しさだった。
それを機に運転しながら彼女の観察を始め、いくつか分かったことがある。
ヒューガはぴったり1分半に一度、持ち込んだコーラの瓶に口を付ける。
やがて4度目でコーラがなくなる。
ドアの収納部分に空き瓶を片付け、沈黙。
その代わりにもう一つ気付いたことがある。
ヒューガはぴったり45秒に一度、前髪を分ける。
それもそうか、何もしなければ鼻先まで隠れるような前髪だ。
背面は腰まで達している。
ヒールは歩くのにも影響が及びそうなほど高い。
パーカーの袖は捲ってあり腕が露出しているが、腕、身体、脚まで本当にスレンダーという言葉がよく似合う。
不思議でならない。
なぜこんな風貌で、あのようなレースができたのだろう。
ヒューガはまた前髪を分けた。
「なぁ」
「……あっ、はい。私ですか?」
「お前しかいねーだろ」
これも不思議だ。
そのすっとぼけな顔でムルシエラゴというモンスターを操っていたのか。
「お前、本当に女だよな?」
「それは遠回しに『脱げ』とおっしゃっているんですか?」
「だったら素直にそう言う。なんでそんなナリであんな運転ができるんだ?」
「運転に見た目なんて関係ありませんよ」
「そりゃ分かってるさ。どこであんな運転を覚えたんだって訊いてんだよ」
「あっ、そういうことでしたか」
45秒経過。
また前髪を分ける。
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