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『お前ら、賭け金は早いとこ回しちまいな。ユーガ・エストラーダ、ダークホースの優勝だ!』
ジジのMCと観衆の大歓声に控えめに手を上げ応えるヒューガ。
その仕草に不自然さや緊張感は見られない。
まるで今までに何度もこの歓声を浴びてきたかのように。
博打に関しては泣く者が九割を占める。
なにせこのレースが始まる前は、ただの遅刻が過ぎる迷惑な女という情報しか回っていなかったからだ。
そして本命であるレオはまさかの2位につける。
遅刻女が優勝すると見越し、今日の賭けに勝ったのは会場内で5人にも満たない。
それだけに今日の博打の勝者は絶対的な勝者であり、敗者は敗者であった。
『じゃあお待ちかね、ラップタイムの発表だ。
4位、カマロ&ファッロ、4分53秒07。
3位、BMW&マルロ、4分48秒55。
2位、ゾンダ&レオ……4分23秒37。
1位、ムルシエラゴ&ユーガ……4分03秒24!
こいつぁすげぇタイムが出たぜ!!』
大歓声。
ヒューガは悪そびれる様子もなく、「ふふっ」とただ楽しそうに笑顔を浮かべた。
……それが気に入らない。
大観衆を軽々と掻き分ける大男が一人。
バンダナを巻いた頭の中は煮えくり返っている。
レオナルド・クレンツェ。
このレースで2位だった男であり、この女さえいなければ1位になるはずだった男である。
「おいクソ女ッ!!!!」
レオの一喝で会場が静まり返る。
やはり来たか、まずい、とジジは思った。
観衆を掻き分けて環の前線に辿り着くと、ムルシエラゴの横に突っ立って観衆に手を降っていたヒューガにズカズカと歩み寄る。
対峙。
最速の女と、最速だった男。
「あっ、こんばんは。あなたと同じコースを走ることができて光栄です」
……最速の女は空気の読めない女。
そう思ったのはレオをはじめ、この会場にいる全ての人間だ。
なぜこのタイミングで握手を求める。
いや、求めることができる。
「光栄だと……!? ふざけんじゃねぇぞテメェ!!!!」
レオはヒューガのパーカーの襟首を掴んだ。
露わになる胸元。
だがそれを囃す者などいない。
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