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「―――よーし。レオ、そっち持ってくれ」
「バカ言え。俺に任せろよ」
会場はもとのパーチェを取り戻しつつある。
あとはこのDJセットが詰まったハードケースとこの簡易ステージを片付けるだけだ。
ターンテーブル、ミキサー、パワーサプライ、ケーブル類、テーブルをすべて詰め込んだ、等身大の縦長なハードケース。
設置の時は男二人で鼻息を荒くして運んで来たが、レオはそれを一人で軽々と担ぎあげた。
ジジは「相変わらずだな」と呟きながらレオと並んで歩く。
視界が半分埋まったレオを誘導するためだ。
目的地は貨物車兼ジジの愛車であるワーゲンバス。
広場の隅に停車してある。
「まあ良かったじゃねぇか、レオ」
「良かった? タイムのことか?」
「ああ。ギリだったが目的の4分半は切れた。あとは運び屋グループからの連絡待ちだな。もうすぐ大金が手に入るぜ!」
「そうだな……」
口ごもるレオ。
確かに当初の目的は達成した。
だが素直に喜べないのが今の現実。
ジジはそんなレオの心中を察する。
「あの女か?」
「まあな。運び屋グループが俺を目当てにここをモニターしていたとしても、あの女が目に止まらないわけがねぇ。決定事項がただの可能性になっちまったんだよ」
「確かに運び屋グループが誰に声をかけるかなんて俺達にはどうしようもない。けどよ、ポッと出の素人女に薬運ばせようなんて誰が思う? 誰がどう考えても適役はお前さ」
「…………」
「そう暗い顔すんなよ。向こうの提示した条件は満たしたんだ。レースの結果なんて関係ない」
「……だな。俺が間違ってた。ブツを詰めるようにゾンダのトランクを整理しとかなきゃな」
「そーそっ、その息だ。だが、レオ。お前にはその前にやらなきゃいけねぇことがある」
黄色いボディに黒いストライプが刻まれたデンジャーカラーのボディーには、レース界、音楽界の著名人のサインが所狭しと描かれている。
ジジはそう言いながら観音開きのトランクを開けた。
畳まれた巨大スクリーン、プロジェクター、回収した定点カメラ、それらを全て司ったパソコン。
すでに積まれたそれらの貨物を避け、DJセットの入ったハードケースを積み込みながら「なんだ?」とレオは返した。
「レオ、あの女に謝れ」
ジャンルイジ・ペシー(ジジ)
フォルクスワーゲン・タイプⅡ T-1
¥2,800,000
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