ー その瞳に映るもの ー

3/10
前へ
/250ページ
次へ
 『鹿嶋 龍之進』の知己に、山崎に似た者はいない。勿論、宵が山崎を『憶えている』はずもない。………なのに……… 宵 「………どう、して………貴方を見てると、涙が止まらないんだろう……」  宵は、突然、大粒の涙を零し始めた。宵自身も、わけがわからないまま、声もなく山崎を見つめたまま、泣いている。  山崎の胸が震えた。このまま、抱き締めて・口付けて・慰めるように優しく抱いてやりたい衝動に駆られる。  ー『触れてはいけない』と、わかっているのにー 山崎 「…………着いて来て下さい。手拭いと着物を貸して上げます。濡れたままでは、風邪を引きます。」  背を向けて、歩き出した山崎に、涙を拭いながら、素直に着いてゆく宵。以前なら、あり得なかった光景だ。 ー新撰組屯所 山崎の部屋ー  宵に手拭いを渡し、山崎は箪笥から、宵の着られる着物を見繕っていた。山崎は背が高く、しなやかながらも鍛えた体躯をしている。  宵も貧弱ではないが、山崎と比べると、小柄で華奢である為、山崎の普段の着物では大きかろう。  そんな中。宵は頭を拭きながら、部屋を見回した。そして、また不思議そうな表情を浮かべる。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

120人が本棚に入れています
本棚に追加