遺留残像

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今日から夏服だ。 半袖の白いセーラー服に、初めて袖を通す。 高校一年の夏が始まる。 エレベーターでマンションのエントランスに下りると、同じ制服を着た百合の花が立っている。 ガラス張りのエントランスに満ちる、朝の光。 その中でゆっくり振り向く高貴な佇まいに、私は十年間、毎日見蕩れている。 彼女の名前は、神崎美弥(みや)。 同じマンションに住む幼馴染。 『住んでるマンションも一緒、年齢も性別も一緒。これから入学する小学校も一緒だし、共通点がいっぱいあって、すぐ仲良くなれるわよ。』 六歳でこの分譲マンションに引っ越してきた時、母はのん気にそう言っていた。 ―――でも。 美弥と共通点があるとか、ましてや同じ世界の住人だとか、考えたことは一度も無い。 美しくていつも堂々としている美弥と、平凡な容姿で自分に自信のない私。 同じマンションに住む、といっても、3LDKの我が家と、最上階のバーベキューパーティーができるようなベランダガーデン付きペントハウスに住む彼女とでは、住んでいる環境がまったく違う。
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