お客さん②

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少し前から、かなり過激なストーカーに付きまとわれていたせいも有って、私の気持ちには余計に余裕も無かった。 「これを渡したくて。」山口君が、車を走らせながら、左手を私へと差し伸ばして来た。 見ると、なんだか、見慣れない物で、「何?これ?」 受け取りながら聞くと 「携帯用催涙スプレーです。」 「今回はかなりヤバいと思って。」 これまでにもストーカー被害には良く会っていたので、今回も大した事は無いだろうと思ってた私に、お店のスタッフも 「名前と電話番号変えて先にホテル入ってると分からないので、もし、ホテルのドア開けてアイツなら、全力で逃げて下さいね!」 と、言われていた。 私自身には被害は無かったが、お店に毎日1日に十数件の電話とメールで「今日のいつみさんの様子を教えて下さい。」 とか連絡をして来るものだから、完全に営業妨害になってしまっていた。 「有り難う、ヤバいかなぁ?今回は。」 「今回は持っていた方が良いと思って。何か有ってからじゃ遅いから。」 こう言う優しい所もあるし、見た目も悪く無いのに、中身がカス、と本当に残念。 でも、優しさは、遠慮なく受け取る事にして。 飛ぶ様に後ろへと流れて行く夜の街の光を眺めながら、感謝の気持ちを込めて、この時は、急に会いに来た事を許した。
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