お客さん②

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一緒にシャワーを浴びて、帰りの支度をしていると、お客さんがポツリ、ポツリ、と話し始めた。 折角建てた家に、奥さんの兄妹が住み付いて家に居場所が無い事、やっと設立した会社も奥さんのご両親に乗っ取られてしまった事。 最後には泣きながら私の腕の中で話し始めた。 時間はとっくに過ぎているが、このまま帰す訳に行かないし、ハイ、終わり。と突き放す事も出来ない。 お店から電話が掛かって来るかも、とヒヤヒヤしながらも 腕の中で泣くお客さんを抱きしめて聞いてあげた。 「本当は、今日、この時間が終わったら死ぬつもりだったんです。」 その言葉に衝撃を受けながらも、気付いて良かったと言う思いもあった、 「最後に人肌に触れたかった。優しくして貰いたかった。」 泣きながらそう言うお客さんを私は強く抱きしめて、「死ぬ勇気があるなら、全部捨てて、1から始める勇気もあるんじゃ無いですか?」 そんな事を必死に私も伝える。
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