お客さん②

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脳梗塞を起こして、リハビリ病棟へ移った私の所へは、友達や鈴音ちゃん、松戸のお店のスタッフや店長等、皆がお見舞いに来てくれていた。 兎に角退院したくて、リハビリを頑張った。その成果と、脳梗塞を起こすにはまだ若い年齢だったのとで、私は2ヶ月で退院する事が出来たのだ。 ひーちゃんの家にお世話になってる時は、兎に角自分の家に戻りたくて、何度か問題を起こしてひーちゃん達に迷惑を掛けた。 やっと自分の家に帰り、近くのスーパーへ買い物へ行った帰り、やっぱり俯いて歩いてる私に「ミサトちゃん?」 と声を掛けてくれたのがケイちゃんだ。顔を上げると、通りの向こうからこちらへと渡って来るケイちゃんが見えた。 左の広角が上がらず、不自然な笑顔をなんとか作って「ああ、ケイちゃん、久し振り。」 と頑張って明るく見せたのがケイちゃんとの再会だ。 自宅へ戻って、お店へ復帰しようとした私に、松戸の店長は「1年は再発の可能性が高いんだよね?だったら1年は止めておきましょう。」 と、断られてしまった。「もし再発したら、お客さんに迷惑になるし、なにより、再発した時にお客さんと居たら、貴女我慢しちゃうでしょ?」 確かに店長の言う通りだ。仕方なく引き下がり、もう1個行っていた柏のお店へと復帰が決まった。柏の店長は「わぁぁ!いつみさん!待ってましたよぉ!」 と手放しで喜んでくれた。 顔馴染みのお客さんも、何人もお見舞いに来てくれて、そんな中、吉野さんと言うお客さんから、飯でも食おう、と誘われて、一緒に食事へ出掛けた。「家や仕事で大変な時、訳隔て無く優しくしてくれて、何度も救われた、だから、今度は俺が助けるから、何か有ったら言ってくれ。」 吉野さんの言葉に、あぁ、今までの私の生き方、やって来た事は間違って無かったんだ、と涙が止まらなかった。 ケイちゃんも、その言葉を聞いて、「良かったな、」 と私の左手を取って、マッサージをしてくれた。 私はこんなになってしまったけど、まだ誰かの為に出来る事があるんじゃないか?と前に進む気持ちを貰った。 左足は相変わらずビッコを引きながらじゃ無いと歩け無い、勿論ヒールも履けなくなった。 でも、ここで終わって貯まるか!と私は松戸からもう少し家の近くにある新しいお店へ面接へ行った。 新しいお店の店長は、私の身体の事も理解してくれて、取り敢えず、お客さんには、足は捻挫した事にしましょう。と私を雇ってくれた。 これだけ綺麗でスタイルも良かったら、前のお店では相当稼いだでしょ?事務所の椅子に向かい合わせで座って、店長は私に向かってそう言った。 稼ぎましたねぇ、と冗談っぽく言ったが、実際7年間ずっとナンバーワンで、かなり稼いだのは本当だ。
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