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この日、兄は試験を受けるために
東京へと向かおうとしていた。
「じゃあいってきます。」
駅は私の通学路にあるので、
兄を見送ることにした。
―――――――――…………
「なぁ、叶。」
冷たく澄み切った空気が、並んで歩く私たちの頬に突き刺さる。
少し痛い。
「なに?」
そう返事をして、兄の横顔を見上げた。
「どうしたの?」
「将来やりたいこと、あるか?」
唐突な質問に、少しだけ動揺した。
本当の事を言おうか逡巡して、
嘘をついた。
「ない…よ、まだ。」
私も音楽がしたいなんて言えなかった。
というより、言いたくなかった。
小さい頃から兄に影響を受けて、部活は吹奏楽に入った。毎日の練習はキツイけど、それでも楽器に触っていられるのは、しあわせに感じている。
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