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「――…なえ。かなえ。」
涙が頬を伝う感覚。
私を呼ぶ声がして、重怠い目蓋をゆっくり持ち上げた。
「おかあ、さん。」
ゆっくりな、でも確実な私の受け答えに
母はほうっと息をつく。
「ここは病院。叶、バスで倒れたのよ。覚えてる?」
ゆっくりと、記憶が戻ってくる。
そっか。あの時男に腕を掴まれて…
つかまれて……
「心配したのよ。静かに眠ってると思ったら、いきなりなきはじめるから。」
涙??
頬を触る。
あぁ、私の涙だったんだ。
「ただの貧血だって。家に帰りましょう。もう夕方だから、夕飯の支度しなくっちゃ。」
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