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「いらない。勝手知ったる場所だし」
「ですが……!!」
女がいいよどむ。
その様子で、ぴんと来るものがあった。
――そういえば、ここ最近……こいつ、抱いてなかった。
飽きた訳じゃないんだが……他に言い寄られて、相手する暇がなかったからな……。
治安維持部隊本局のエリート。
けれども、その実態は市井の人々と何ら変わらない。
常にその内側にどろどろとした欲望を秘めている。
否。“エリート”という特殊な地位に居るがために――その欲望は隠され、更に薄暗い情念に変貌されていく。
いいよどみ、もじもじとしている女に優しく微笑み返す。
「……わかった。案内、頼みます」
そう言うと、女の顔がパッと明るくなった。
――本当にわかりやすい。
確かに……ここでは私に言えないよな……。
『抱いて』
とは。
エリートの女のプライドが許さないだろう。
保護を求めて――自身を売った襲名クリエイターに――往来の真ん中で頭を下げるなんて……な。
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