愛液と死の溜飲

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『地元が嫌いだった』 理由なんてそれ以外にはなかった。 一時間に一本しかない二両編成のローカル線。そのためだけに引かれた錆び付いたレールが野畑に唯一色を着けるような田舎町。 小・中・高、全ての学校は市内に一つしかないため、わざわざ古本屋と古いスーパーマーケットがあるだけの隣町まで電車通学したいがために通う変わり者以外は同じ顔ぶれのまま年老いていく。 そこでは喧嘩も恋も何もかもが山に囲まれた町に収まり、まるで箱の中で過ごしているような窮屈さが随時漂っていた。 完結した世界。 まるで物理的にも精神的にも俺はこの町が世界の広さだと感じざるを得ない状況だった。 正確には俺だけではなく、ここの町民全員だったのかもしれないが。どちらにせよ町の外や、ましてや都会に心を寄せるどころか無理してこの町を出ようとする人なんていなかったのは確かだ。 俺はそれが嫌だったんだ。 まるで先祖の時代から遺伝子にインプットされた呪縛のようで、この先も何年、何十年もこの町で過ごさなければならないと考えると言いようのない嫌悪感と吐き気を感じた。 俺はここで完結した人生を歩みたくない。 結果。高校卒業と同時に俺はこの町で築き上げた友人関係や大人との馴れ合いも名残も、恋人も何もかも棄てて上京することにしたのだ。
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