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【A】
Aはリストカットで死んだ。
何度刃を差し込んでも失恋した相手の愛しい笑顔が消えない。
痛みすらも認識しない脳内は、明滅する恋心が乱反射するばかり。
遠退く意識は対極的に、はっきりと相手の容姿を濃くする一方だ。
やがてAはその刃を動脈まで到達させた。
静脈とは比にならない程の勢いで鮮血が飛び交う。
Aは泣いた。
激痛が走る左手首と、それ以上の激痛を訴え続けていた心。
死に際にAは自分の涙が落ちる度に手首の傷が消える光景を目にした。
それが夢か現実かは分からないが、彼女の死に顔はとても美しかったらしい。
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