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【C】
Cは溺死で死んだ。
深夜に公設ダム施設へと忍び込んだCは、自身の背丈の三倍はある貯水タンクに全裸で飛び込んだのだ。
その身に宿したのは自殺願望のみであり、拘束具や沈降補助物は一切取り付けていない。
文字通り産まれた時の姿で飛び込んだCだったが、決して息苦しくはなかった。
むしろ心地良かった。
か弱い水圧は天使の両腕のように彼女を包み込み、呼吸を奪う水は彼女を内側から優しく愛でた。
地上に息苦しさを感じ続けていたCは、汚い感情や言葉が届かない水中でこそ本当の息が出来る生き物だった。
秒刻みで薄くなる人間としての命と、濃くなる体内水溶濃度にある種の快感を憶える。
やがてCは絶頂を迎えたかのように快感の海で逝き果てた。
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