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「いえ、こちらこそご丁寧にありがとうございます。桜ちゃんだったっけ?無事で良かったよ。」
院長先生はそう言って、桜に向けてニコッした後、足元にしがみつく桜をひょいっと抱き上げた。
「で……。あの……。奥様の治療の方は如何されますか?治療して行きますか?」
と院長先生は言って、今度は私を見た。
私はまた下を向いてしまった。
主人は、
「いえ、骨折ですので整形外科に通わせます。レントゲンや設備もしっかりしてますし、どちみに接骨院では治療出来ないみたいですしね。」
ちょっととげのある話し方に、私はムッとして主人を睨み付けた。
でも、そんな事は気にした様子もなく、
「そうですか。早く良くなるといいですね。何か骨折の事でご相談とか、時間外に痛くなったりしたら遠慮なくいらして下さいね。ここ自宅なんでお電話頂けたら折り返しお電話差し上げますから。」
と院長先生は、主人にも笑顔で答えた。
またふわぁっと風が吹いた。
「院長~~~。ご指名ですよ~~~。」
と中から呼ばれた。
院長先生は桜を下ろし、頭をいいこいいこして、癖なのか、また少し首をかしげ私の方を向き、ニコッと微笑み、
「雪降りそうだし、足元気を付けて下さいね。では、失礼致します。お大事になさって下さいね。」
と、中に入って行った。
入れ替わりに、中尾さんが出て来た。
「え~。うちに通わないんですかぁ?残念。大塚さんとは気が合うのに……。」
と、中尾さんはがっかりした様だった。
私は、首部を垂れて、
「うん……。ごめんなさい。主人が整形外科行けって……。」
と言うと……。
中尾さんは、
「じゃあ、たまにマッサージでも来てくださいよ!院長めちゃくちゃ気持ちいいですよ!」
と、自信たっぷりに言った。
私は、
「あはは……。そうだね。ありがとう。」
と、お礼を伝え接骨院を後にした。
ベージュの外観。
青い海や空を想わせる綺麗な看板に『遠山接骨院』と書いてあった。
娘が飛び出した原因のクリスマスツリーとサンタさんは、玄関の日差しの中でキラキラ輝いていた。
綺麗……。
まるで、別世界みたい。
その時始めて、自分の顔・体型・服装……何から何まで、この世界とは違う様に思えた。
恥ずかしさと寂しさが入り混じって、松葉杖でつなげない可愛い桜の小さな手だけをじっと見つめていた。
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