第4章 骨折…心も折れて…

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「う~ん。そうゆう事かぁ~~~。足を使わずにいたから、骨の再生が遅かったんですね。本当なら急性期を過ぎたら少しずつ加重を掛けながらリハビリを始めた方が治りが早かったんですが、でも大丈夫。精一杯治療させて頂きます!一日も早く歩ける様に頑張りましょう!今まで大変だったでしょう?」 穏やかで、丁寧なそれでいて耳に心地よい優しい声で、院長先生は言った。 あまり人前では、泣かない私が目頭がつ~んとした。 院長先生の瞳は、まるで自分でも気がつかない心の中まで診察されてるみたい。 院長先生の目を、きちんと見れない。 慌てて下を向いた。 私はあの移動器具でも筋肉は使っていると思っていた。 実際は筋肉低下、加重を掛けずに居た為、骨への刺激が少なく骨の強度も弱くなっていたのだった。 自分の軽はずみな行動が、骨の形成を遅らせた上歩く事も出来ない程になっていたのだ。 恥ずかしくてますます顔も上げられない。 院長先生は、診察を初めた。 手際よく包帯とギプスシャーレを外した。 触れる手のあまりの温かさに 「あったかい。」 とつぶやいた。 院長先生は、 「あはは。大塚さんの足が冷たいんですよ。辛かったでしょう?」 と、まるで今までの右足の痛みを取り除くかの様に、温かい大きな手ですっぽり包み込んでくれた。 かなり痛みが強かった為、その日は湿布と包帯で治療を終える事になった。 しばらくは毎日接骨院に通院して、超音波治療器で骨の形成を促し、電気治療器で使わなかった筋肉を刺激し、徐々にリハビリとストレッチ、そして筋肉トレーニングを始めるとの治療方針を待合室にいる主人にも説明をしてくれた。 翌日から桜の幼稚園の間に通院が始まった。 「こんにちは~!」 接骨院のドアを開けるとスタッフ一同声を掛ける。 「お大事にどうぞ~。」 遠山接骨院は何よりも挨拶を大切にする。 心地よい挨拶には、沢山の気持ちがあると思う。 院長先生の挨拶。 優しさや思いやり、患者様の体調とかの気遣い。 当院を選んで来て下さった患者様への感謝の気持ちと労いも含まれている様な澄んだ声が響く。 人としての基本。 私が主人と結婚して一番欲しかったもの。 なぜか院長先生の声だけでも温かい気持ちになれた。 私は小さい頃から挨拶の溢れる家族で育ったが、主人と結婚してからは挨拶のない家庭になった。 だから、遠山接骨院の挨拶は私にはとても心地良く聞こえた。
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