第4章 骨折…心も折れて…

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院長先生に会うと緊張するのに、不思議と治療中はまるで海の中にいる様な不思議な感覚を覚えた。 温かく体中が癒され凪いでいく様な……まるで海に浮かんでいる様な……時間の流れさえ感じなかった。 施術の後は日常の疲れも痛みも消えていく様で、自然と笑顔になれた。 そんな私を見て桜は、 「ママにこにこ。ママ大好き!」 と言った。 「ママも桜大好き!」 不思議な位、幸せな気持ちになれた。 家に帰っても元気は持続して、家事も娘の幼稚園でのまくし立てる様な話(普段なら疲れて適当な相槌になってしまう)を聞く事も全てが苦にならなかった。 全てが輝いている様にさえ思えた。 時々他の先生の日もあったが、逆に緊張はしないのに体は固くなり施術自体はどの先生方も院長先生と同じ施術方法なのに、終わると痛みが増す事もしばしばあった。 ゴットハンド。 施術も声も……院長先生は魔法使いみたい。 そう感じた。 1週間位経ち痛みも大分収まってから、まだ外は歩けない私に接骨院から再度松葉杖の貸し出しを受けた。 松葉杖の使い方も知らない私に、院長先生は丁寧に教えてくれた。 パーシャルウエイトベアリング。 加重方法。 三分の一加重。 二分の一加重。 全加重。 使い方を接骨院の通路で教えてくれた。 階段の上り下りを教えてくれた時、階段の下りで、松葉杖を滑らせて落ちそうになった時、 「おっと。」 院長先生の大きな腕で支えてくれた。 先生として当たり前の行為。 緊張したり恥ずかしがる方がおかしい。 私1人照れるのもおかしいと、内心ドキドキしながらも平然を装ったつもりだった。 院長先生の方が、 「すみません。」 と、パッと手を離したのが逆に空気が重く感じて……。 「こちらこそ、すみませんでした。」 とギクシャクしてしまっていた。 多分、その頃から私は自分の胸のざわめきに気付き始めていたんだと思う。 次にストレッチや筋肉トレーニングも始まった。 院長先生のトレーニングは、一つ一つの所作が優しい。 治療そのものも、ゴットハンドだなぁと感じていたが、ストレッチも私の硬い体をほぐしてくれる。 本当に不思議。 トレーニングも軽く支えながら、筋肉が落ちてるのに、院長先生が数を数える時は重力さえなくなったみたいに不思議な感覚だった。 「1・2・3・4・5……。」 トントンと叩いてくれる。 不思議な感じがした。
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