第4章 骨折…心も折れて…

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そのまま歩く練習。 院長先生は手を引きながら、 「まずは後ろに……いちに、いちに、後ろに下がる方が簡単なんですよ!いちに、いちに。はい、前も!」 私は下を向いたまま必死に普通に振る舞う事に集中した。 「では、最後に少しだけ自分で歩いてみましょうか?」 と、院長先生は言った。 「はい……。」 私はつたない足取りで歩こうと足を進めた。 が……。 グラァ! まだ筋力もつかずにバランスがとれない私は後ろに向かって垂直に倒れそうになった。 ふわっ~。 温かい手が私の両肩を後ろから掴んだ。 見上げると、後ろから身長差ゆうに30センチ以上ある院長先生が前屈みで覗き込んで、 「大丈夫ですよ。いつでも支えるから。安心して歩いて。」 柔らかい微笑みをくれた。 それからは恐怖も緊張もなく、まるで海の中をさまよって無重力状態の様に軽くなり安心してリハビリを進められた。 久しぶりに自分の足で歩けた幸せを噛みしめながら今日の診察を終えた。 帰り掛け、院長先生が、 「今日からご自宅でも歩く練習をしてみて下さいね。ご主人にお願いして支えてもらってね。」 と、満面の笑顔で言った。 何故か心は苦しくなった。 ぺこりとお辞儀して、接骨院を後にした。 帰宅して、主人にリハビリを頼んだが、 「え~っ。面倒くさい。ベランダの手摺りでも持ってやれよ。立ったり座ったりは椅子の背もたれ持てば?」 と、どんなに頼んでも手伝ってはくれなかった。 椅子の背もたれで練習してると、まだバランスも取れず、無駄な力が入る私は椅子ごと倒れた。 ガッターン! 見ていた主人は、 「バカかっ?また怪我して迷惑かけないでくれよ……。」 と、助けにくる所か少し呆れ顔で笑ってた。 大した事ないとわかってるからだとはわかっている。 でも、心に冷たい風が吹いた。 翌日お風呂につかっていると、体中字だらけだった。 主人の何気ない言葉と笑い顔。 院長先生の温かい言葉と笑い顔。 交互に胸に浮かび、また1人涙を流した。
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