第5章 変化

2/16
前へ
/108ページ
次へ
それからも、平日は出来る限り毎日通院をした。 でも、いつも人気がある院長先生は他の患者様のご指名に忙しい。 私は指名はしなかったし、出来なかった。 いつも、担当してくれる若い先生は常に一生懸命で、私がもし結婚して間もなく子供を授かっていたら、この位? 息子の様に思え応援していた。 しかも私の初恋の人に似ている。 初恋と言っても、院長先生を思う今は……。 きっと私は今まで恋をして来なかったとわかる程、恋はこんなに苦しいものなんだと知っちゃったけど……。 バレンタインが訪れた。 娘とバレンタインのクッキーを焼く。 娘の友達や友人、主人、主人の実家、自分の両親、お世話になってる人……毎年恒例行事になっている。 私のクッキーを皆んなが誉めてくれるから嬉しくて。 今年も頑張って焼いた。 院長先生に食べて欲しいなぁ……。 でも気持ちに気付いている今、渡す勇気はない。 そんな気持ちを知らない桜は、 「ねぇ!ママ~!クッキー少し頂戴。ママを治してくれてる院長にあげるの!」 と言った。 「えっ???」 内心ドキドキしながら、 「うん……いいよ。」 とクッキーを袋に詰めラッピングした。 桜は、時々一緒に通院する。   ディズニーのDVDを見たり、絵本を見たりして、楽しいらしい。 前に幼稚園で転んで帰って来た時も、院長先生が薬を付けて治療してくれた。 桜にとっても院長先生は別格らしい。 しょっちゅう 「院長好き~~~。」 と言っている。羨ましい限りだ……。 バレンタイン当日。 桜を連れて通院した。 受付さんにクッキーを渡し、 「娘からです。少しですが、皆さんで召し上がって下さい。」 と渡した。 桜が、 「院長にだよ!」 と好き好き光線を出すかの様にピョンピョン跳ねながら、受付の向こうの院長先生を探してる。 「こらっ!桜。皆さんでだよ!」 と言うと、受付の中尾さんが、 「桜ちゃん、見る目あるね~。院長カッコいいもんね。」 と言った。 少しだけ胸がざわめいた。 診察の順番が回り、いつも通り若い先生……滝沢工先生が施術に入った。 「クッキーありがとうございます。」 カルテに 『大塚さんからバレンタインにクッキーを頂きました。』 と、中尾さんからのメモ書き。 通院していて、わかること……。 院長先生はとても人を大切にする方。 思いやりの心を持ってる方。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加