第2章 出会い

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「あっ、あの~。これ以上ご迷惑掛けられないので、タクシーで行きます。」 と言うと、 「僕の見立てが正しいか確認させて!まだ開業したばかりなんだ。だから、気にせずに!本当は僕が着いて行けたらいいんだけど、患者様が待ってるしね。」 と言いながら外の駐車場で待つ患者様を見つめていた。 また、ふぁと風が吹いた。 それから、テキパキと紹介状とおぼしき書類を用意し受付さんに渡した。 まだ、申し訳なさで、ぐずぐず言う私に、 「大丈夫。これは僕のおせっかいだから気にしないで!」 と満面の笑みを向けて、私と娘を車まで運び、白衣の人は、午後の診察開始の札を掲げた。 「あのっ、診察代を……。」 診察代をお支払しようと、お財布を出した。 「あはっ。いらないですよ。」 両手を振りながら白衣の人は笑った。 「えっ!でも……。」 「今日は診察室にも通してないし、僕のせいで大切な娘さんが事故に会う所だったから。ねっ。」 首をかしげて覗き込む様に、大きな大きな白衣の男の人は微笑んだ。 しばらく押し問答し、診察代なんて取れないと、頑なに拒まれ……。 これ以上仕事の迷惑にはなりたくないので、後でお礼に伺う事を胸に決めた。 「何から何までありがとうございます。お言葉に甘えて、またお礼に伺わさせて頂きます。」 手短にお礼を伝えた。 「いえ。お大事に。またお待ちしていますね。」 今日見た笑顔の中でも最高の笑顔で、にっこりとほほ笑んだ。 途端に恥ずかしくなり、下を向いてしまった。 恥ずかしさを隠すように、 「ほら、桜!お礼と挨拶は?」 と言うと、 「お兄ちゃんありがとう。またね。」 と手を振った。 白衣の男の人も、高い身長をかがめて、桜と手をタッチして笑顔で手を振った。 また、温かい風が吹いた。 その後、受付さんの運転する車で整形外科に向かった。 整形外科での待ち時間に、あの接骨院の受付をされている中尾美樹さんと沢山お話をした。 白衣の男の人は、35歳で院長先生として、あの接骨院を経営されてると言う。 名前は、遠山広夢さん。 「あの歳で、柔道整復師・あんまマッサージ師・鍼灸師、資格いっぱいなんですよ~。」 中尾さんは、少し顔を赤く染めて話していた。 「凄いですね。」 なんとなく、中尾さんは院長先生がお好きなんだろうなぁと感じた。 お似合いだなぁと……。
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